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朗読劇「STAND BY」を終えて。彼女の観劇記。

朗読劇「STAND BY」無事に幕が下りました。
脚本、演出として参加させていただき、大変ご好評をいただきました。

出演者の皆さん、制作の皆さん、音響さん、照明さん、デザイナーさん、劇場の皆さん、
そして、何より、来場してくださったお客様。
たくさんの人に支えてもらい、本当に感謝しています。

あらためて、私の気持ちを記そうと思いますが、観劇にきた親友が、「STAND BY」を語る上で、すべての想いを凝縮した文章を書いてくれたので、それを全文掲載します。

たった2回観劇しただけで、ここまで書ける文章力、表現力、記憶力、恐るべしものがあります。
私にさえ気づかなかった主人公たちの思いもくみ上げてくれました。

彼女は天才です。

私と彼女は高校一年のときに出会い、たくさんの時間を共有しました。
軽音楽部で一緒にバンド組んで文化祭に出たり、一緒に小説を書いたり、ケンカしたり、仲直りしたり、ありふれた大切な時間を余すことともに過ごしました。

樹と正午のようにときに離れた時間も過ごし、また寄り添い、今は、気持ちよく「キャッチボールできる距離」にいます。キャッチボールは、近すぎても遠すぎてもできないのだと、主人公たちが語っています。


私たちは、少女のころから作家になりたかったけれど、作家になったのは私だけです。

でも、天才なのは圧倒的に彼女です。そんなことはとっくにわかりきっています。
なんで、彼女じゃなくて、私が作家やってるんだろうって、つくづく思います。きっと、ずっと思ってる。

そんなところも、樹と正午のようだな、としみじみと思うのです。



以下、許可を取り、全文掲載させていだきます。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


〜〜朗読劇「STAND BY」 南々井梢 観劇記 by chihiro〜 

この作品は、光にあふれてる。
夏、高校、部活、友情、夢。

まぶしさは普遍的だ。これらのキーワードに思い出がない人なんていないと思う。
でも、作品の中で描かれているのは、光じゃない。

主人公の二人は幼馴染で、プロ野球選手になるのが夢。
泣き虫で甘えん坊の正午(まひる)と、気が強く、野球の才能に恵まれた樹。
樹の兄でプロ野球選手の要は、二人の憧れのヒーローだった。
どこで歯車が狂ったんだろう。
光には必ず闇が伴うことを知らなかった。でもそれは罪ではないはずだ。

この作品の一番やるせない部分は、大切な人を思いやれば思いやるほど、相手を追い詰めてしまうということ。
樹も正午も要も、互いの夢が、自分の夢だった。
ただ、それだけ。
人生に「もしも」はない。
だけどもしもあのとき何かが違っていたらと、考えずにいられない。

最初に歯車が狂ったのは要だ。
甲子園のエース、ドラフト1位でプロ野球選手になった。
でも結局はそのことが、要を追い詰めた。
要は、2人の幼い少年のヒーローだった。だから強い存在でいなければならなかった。

強い憧れは、ときに暴力だ。

世界と自分の存在がずれていく過程で狂気は育まれていく。

要の最初の登場シーンで、彼は境界線の上にいた。
あのころ、要を支えていたものは、樹と正午を失望させないことだけだったのだろう。
どんなに恰好悪くても、要を見上げる2人のまなざしが翳ることはないっていうことを、私は知ってる。
みんな知ってる。

なのに、要だけが知らずに、自分で自分を追い詰めていってしまう。
要が登場したとき、その流れはもうどうやっても止めることのできないところまできていた。

これはお芝居だから、「その前」はない。
だけど、だけど本当はある。
リトルリーグ時代や高校時代、無敵のスーパーエースで本当のヒーローだった頃。
誰よりも強く、輝いていたことを、本人が1番知っている。
自分がもうそこにはいないこと、そして、もう二度とそこには戻れないこと。

血を吐くぐらい本気で何かに取り組んできた人に向かって、無邪気に「がんばれ」っていうのは、時として取り返しのつかないほどに追い詰めてしまう。
「もういいよ」って、言ってあげたかった。
もちろん、私にそんな資格はないのだけど。

舞台では、樹と正午が高校に進学し、それぞれのフィールドで、約束を果たすべく、野球を続けている。
名門校の野球部に、特待生待遇で進学する樹、かたや弱小野球部しかない都立高校に進学する正午。

「そのとき僕ははじめて、プロ野球選手にはなれないかも知れないと思った」

「だけど僕は、藤ヶ谷高校野球部が好きだ」

この正午のモノローグには、闇を見ないものだけが持つ強さがある。
親友は強豪校の特待生、それなのに一緒に夢を追ってきた自分には、キャッチボールもできない部員たち。
でも、正午は本能的に知っているのだろう。
本当の強さは、ストイックさやリアリズムじゃない。
いつでも笑っていられること。
馬鹿で軽薄で不純でいい。太陽の匂いのする笑顔があることが、一番強い。
それは勝ち負けではない。
甲子園もプロ野球選手も、ただの「結果」。夢をかなえるということは、単なる人生の通過点にある1つの結果にすぎない。
だけど「夢をかなえる」っていう言葉はまぶしすぎて、永遠の楽園のような錯覚を起こす。
だから「今」の自分を犠牲にしてしまう。

人生なんて本当は今この瞬間にしか存在しないのに。

永遠の楽園なんて、存在しないのに。

甲子園出場を果たし、プロ入りに向かう正午が泣きじゃくって言うセリフに、そのことがぎゅっと凝縮されている。
「なんか、すごく違う気がするんだ」
夢に近づけば近づくほど苦しい。
今よりずっと夢から遠かったあの頃、「プロ野球選手にはなれない知れない」という絶望的な予感。
だけど、幸福だったのは、夢に手が届いた今じゃなく、夢を失いそうだったあの頃だ。
幸せっていうのは、道の先にあるのではなく、遠い過去にしかない、蜃気楼のようなものだ。

現実とのギャップに直面して、先に心が折れたのは樹だった。
兄・要の強い勧めで練習を別メニューにしたことで、チームメイトからは疎まれ、しかもエース候補は他にいた。
謙虚でい続けることは難しい。
まして、ほんの子供の頃から才能を認められ、周囲からちやほやされてきた。
要が樹と正午に弱さを見せられなかったように、樹も情けない自分を見せられなかった。
だから、樹には、逃げ出す理由が必要だった。
誰にも疑われず、プライドを守れる理由を、たった一人で。
要は登場したときからもう止められない流れの中にいたと書いたけれど、樹はそうじゃない。
プライドが高く、要にさえ頼らず、完璧じゃない自分を許せない、そんな彼が、だけど一度だけ小さなSOSを発するのを、私たちは目撃する。

「俺がそばにいてやればよかった」

正午に向けて、電話越しにつぶやいた、聞き取れないほどの小さな言葉。
あれは、正午へのSOSだったと、今の私は思う。
光に満ちた明るい世界しか知らない正午には、届かなかった。
幼いからこそ、伝える方も受け止める方も、気がつかなかった。
舞台を見ている私の胸に、後悔が宿る。
いっちゃん、気がつかなくてごめんね。って。
・・・思わずにはいられない。

STAND BYの光にあふれているシーン、それが藤ヶ谷高校の、最初の甲子園への挑戦だ。
自分でやった怪我で名門校を去った樹が、陽だまりに誘われるように、正午のいる藤ヶ谷高校に転入する。
樹ははじめて自分の場所を見つけて、安らげるようになる。
樹はエースとして大活躍し、チームは決勝戦へ。
このまぶしさは、闇へ導く布石だ。
まぶしければまぶしいほど、闇は濃く息もできないほどに広がっていく。

要の自殺という衝撃的な展開から、正午さえも闇に取り込まれていく。

私は、好きな作品は、映画でも本でも、何度も読み返す。
だからSTAND BYももう一度見に来た。
だけど、芝居は目をそらせない。
本のページやDVDを早送りするように、いかない。

どんどん心が死んでいく樹と、夢に近づきながら絶望していく正午をじっと見てなきゃならなくて、
見ていて、本当に本当に苦しかった。

大好きな樹を正午が追い詰める。
約束を守ろうとすればするほど、二人の距離が遠ざかる。

それでも光の差す方を見つめ続けた正午が、ついに一度だけ闇に取り込まれる。
予選大会の決勝戦、8対0の大差で勝利はすぐそこまで来ていたのに。

「肩が痛い」
「はやくいっちゃんに交替してよ」

この場面に樹は現れない。
樹はどんな風に、この光景を見ていたのだろう。

「親友をやめる」という正午の決断。

正午はもう本当に、わかっていたから決断した。
「チームために、自分の夢のために」というセリフがあるけれど、そうじゃない。
大好きな樹を死なせないために、決めた。
樹の夢を奪うこと、自分の道を進むことを。

それから物語は、少しずつ光を取り込み始める。

そのとき樹は、今自分のいる場所からの景色を、空っぽの心で見つめていた。
もう、嫉妬も憎悪も恨みも痛みも悲しみも感じていなかった。

取り込まれた闇を打ち返すための言葉を、要の思いとともに知った。
その瞬間、魂のそこから叫んだ。

「まひる、がんばれ!!」

この場面は、本でも映画でも普通のお芝居でも表現できない、朗読劇だけが表現できる、最たるシーンだったと思う。
マウンドの上で、正午が笑顔になったのが見えた。
気がしたんじゃなくて、本当に。

あまりにもつらいことがあると、人は時間を止められる。
痛みを癒すには、時間の流れは役に立たない。
だから、息もできない苦しみの中で、人は時間を止めらる。

そして、要の死とともに止まっていた時間を動かしたのは、樹の声だった。

やがて二人は再会する。
ウガンダという、遠い国のグラウンドで。

スター選手の栄光と挫折、死の予感。
怒り、悲しみ、恐怖、弱さ、嫉妬、裏切り、傷。
対照的な性格の二人の親友同士、すがすがしいほどのライバルの存在。
楽しいチームメイトの存在、そして夏。夢。
無名の弱小野球部を甲子園に導くエース。

このお芝居は、演じる役者にとても酷だったと思う。
この文章を書いているだけで、私だって涙でぐちゃぐちゃだ。




二度目の観劇のときは、主役の二人自身を思って泣けた。

STAND BY
私は、南々井梢という作家の作品を、はじめて心の底から本当に、愛した。
だから、この舞台を作り上げてくれ役者をはじめ、すべての人たちへ、ここに感謝したい。
梢と一緒に舞台を作ってくれて、ありがとう。
彼女の作り出した世界で、苦しんでくれてありがとう。

この文章を書いている今、もう最終公演がとっくに終わっている。

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